右手でペンを持ち手紙を書いてる

ネットに書き込んだ人物を特定する場合、裁判所に仮処分の命令を取って、コンテンツ(ホスティング)・プロバイダ業者に情報開示を求めることが、早い解決に繋がります。

またIPアドレスが保存されるというメリットもあります。ただし担保として保証金が必要となります。

前回の記事で、裁判所を使わないで情報を開示してもらう方法についてお知らせしました。しかし、のらりくらりと理由を付けて情報を開示しない業者がいるのもたしかです。

そんな時は、裁判所の命令をとってしまうのが早くておすすめです。100%情報開示ができる訳ではありませんが、裁判所の命令があればスムーズに運ぶ可能性が高くなります。

通常、弁護士が行う作業ですが、自分でできないことではありません。弁護士に依頼するとしても、全体の流れを知っておくと安心できると思いますので参考にしてください。

1.なぜ仮処分を出すのか?

裁判所のハンマー

裁判所に対する訴訟手続きには、本案と仮処分の2つがあります。このような情報開示請求の場合は、仮処分の申請を行います。

なぜ、仮処分の申請を行うかというと、簡易・迅速な手続きで、本案とほとんど同じ内容を実現できるからです。

ただ、デメリットがない訳ではありません。ほとんどのケースで、担保として保証金が必要となります。一般的には10万~30万円程度が必要になるとされています。

保証金なので後で取り戻すことは可能ですが、ひとまずはまとまった金額を用意しなくてはなりません。

また、原則として別途本案訴訟を提起することとされているので、提起をしない場合には仮処分命令が取り消されることがあります。(民事保全法373項)。

とは言え、情報開示の場合は、一度開示された命令が取り消しになることはまずありません。既に知られてしまった情報を隠すことに意味がないからです。

誹謗中傷に関しては、11秒でも早く消したいものなので、結果が出るのが早い仮処分を使うのがよいでしょう。

では、改めて裁判所を使う意義についてお知らせします

裁判所を使う理由

第一の理由は、開示に応じさせられる可能性が高くなることです。

前回お伝えしたように、裁判の手続きを使わなくても依頼を出すことはできます。しかし、コンテンツ(ホスティング)・プロバイダが開示に応じないことがあります。というより、応じない方が多いと言えるでしょう。

そのような時、裁判所の命令がとても有効となります。裁判所の命令があれば、コンテンツ(ホスティング)・プロバイダが情報開示する可能性が高くなります。

他に、IPアドレスの保存というメリットがあります。

IPアドレスは、ネットを経由してサイトを閲覧した時にプロバイダから割り振られる住所のようなものです。これが判明すれば、どこの誰が書き入れたものなのか、特定できます。

しかし、サイトを閲覧する人、一人ひとりに割り振るほどIPアドレスは十分に用意できません。

そこで、一人ひとりに固定のアドレスを付与するのではなく、インターネットにアクセスする度に空いているアドレスが宛がわれるのです。

つまり、あなたは今ネットに接続してこの記事を読んでいる訳ですが、今、使っているIPアドレスと、一旦接続を切った後でもう一度接続をした時のIPアドレスは違っている可能性が高いということです。

毎回違うのならば、どうやってそのIPアドレスを利用した人を特定できるの?と疑問に思われたかもしれません。

そこで重要になるのが、タイムスタンプです。

つまり、何年の何月何日、何時何分何秒にアクセスしたのかわかれば、その時間にそのIPアドレスを使っているのは一人だけなので、誰が使っていたのかを知ることができます。

つまり、誰かを特定するにはIPアドレスとアクセスした時間の2つが必要ということです

。ここからが重要なところですが、この大切な2つの情報には、一定の保存期間があります。その期間が過ぎてしまうと、この2つの情報は消えて無くなってしまうのです。

保存される期間は3ヵ月?

保存される期間はコンテンツ(ホスティング)・プロバイダによって違うのですが、多くのプロバイダがだいたい3ヶ月としてるようです。

3ヶ月以上経つと、IPアドレスを含むインターネットアクセスの情報は消えて無くなります。そうなると、誰が書いたものか証明することはほぼ不可能となってしまいます。

通常の裁判手続きをすると、意見照会だけでも1ヶ月半程度の時間が掛かってしまいます。さらに相手が忙しいという理由などで延ばされでもしたら、あっという間に3ヶ月以上が経ってしまうでしょう。

そもそも、投稿された瞬間に気が付くことは少ないと思います。ですから、気が付いた時には既に投稿から1ヶ月以上経っていたということもあるでしょう。

そんな状況では、1ヶ月以上も日数が掛かるかもしれない手続きなどをしている余裕はありません。

しかし、裁判所が「一定の理由がある」と判断すれば、「すぐに開示せよ」という仮処分を出すことになります。

仮に仮処分がすぐに出ないとしても、こちらが申し立てを提出した時点で裁判所からコンテンツ(ホスティング)・プロバイダ側に連絡がいきます。

するとプロバイダ側は仮処分の決定に備え、ログインの情報を保存しておくように手配します。その結果、たとえ3ヶ月を超えても情報が得られる可能性が高まります。

このように、仮処分の申請には多くのメリットがあります。

2.裁判所に仮処分を提出する手順

広場の木の階段

では、仮処分の申請書を作る手順について説明をしていきます。まず、仮処分を申請するには、次の2つの主張を行う必要があります。

発信者情報開示請求権があること
②早急に決定がでないと回復できないような損害が生じる恐れがあること

①発信者情報開示請求権があること

相手側が特定電気通信役務提供者であることの説明や特定電気通信設備を保有していることの説明と、自分の権利が侵害されたことの説明が必要です。

自分とは、自然人だけでなく、法人や権利能力なき社団なども含まれます。

自分の権利については、裁判を使わない申請のところでもお伝えしていますが、名誉権、プライバシー権、営業権など基本的に不法行為になり得るものであれば、何を書いても問題ありません。

②早急に決定がでないと回復できないような損害が生じる恐れがあること

こちらは「保全の必要性」と呼ばれるものです。

先程、お伝えしたように多くのコンテンツ(ホスティング)・プロバイダがログ(アクセスした記録)の保存期間を3ヶ月程度としています。

この為、早急にIPアドレスやタイムスタンプを開示してもらわないと情報が消えてしまい、書き込みをした人物の特定ができなくなってしまいます。そのため、この点を指摘すれば問題ありません。

発信者情報開示請求では、相手側を呼び出して双方の意見を聴取する双方審尋という手続きを行います。

この際にプロバイダ側も争う構えでくることが多いので、どのような根拠で請求しているのか、なぜそれが正当な根拠と言えるのかなどを裁判所にわかるように書く必要があります。

発信者情報開示請求仮処分は、プロバイダの所在地を管轄する地方裁判所のみが出すことができると決まっています。このことは、民事保全法121項、3項 民事訴訟法41項で定めれています。

プロバイダの所在地を元に裁判所のWEBサイトで確認してから担当区域の裁判所に申立書を提出するようにしてください。

管轄区域はこちらから確認をしてください。
http://www.courts.go.jp/saiban/kankatu/

なお、運営会社が外国法人である場合、管轄する裁判所は「東京地方裁判所」となります。

申立書を受け取った裁判所は、基本的にすべての案件において、債権者面接というものを行います。これは、裁判官とあなたが面接をして申請書の内容に不備がないかを確かめる為のものです。

そこで不備がなく、相手のプロバイダ業者が国内法人であれば、約1週間後に双方審尋の期日が組まれます。期日が決まったら、プロバイダ業者に送る呼出状に貼付する切手等を納付します。

裁判所が申し立てに一応の理由があると判断した場合、担保金を条件に決定をしてくれます。

発信者情報開示仮処分命令申立書の書き方

発信者情報開示仮処分命令申立書について、公的機関が用意した雛形の存在は確認できませんでした。簡単に必要な要素を書いたものを用意しましたので、こちらを参考にして頂ければと思います。

発信者情報開示仮処分命令申立書

発信者情報開示仮処分命令申立書

発信者情報開示仮処分命令申立書

3.ログの保存請求記載例

コンピューターデータ

コンテンツ(ホスティング)・プロバイダからIPアドレスやタイムスタンプの開示を受けたら、次はインターネット・サービス・プロバイダに対して、プロバイダ契約者の情報開示を求めます。

ただし、インターネット・サービス・プロバイダがログを保存している期間も3ヶ月程度ですので、投稿されてから3ヶ月以内に開示請求を行う必要があります。

仮処分が出るまでにその期限が来てしまいそうな時には、事前にログの保存依頼をしておくようにしてください。

ちなみに、裁判を使わなくてもログの保存をしてくれるインターネット・サービス・プロバイダは多いようです。書式に指定はないので、保存して欲しい内容がわかるようにして送れば大丈夫です。

記載例を紹介します。
ログ保存の請求例

ログ保存の請求例
インターネット・サービス・プロバイダの中には、裁判で命じられないとログを保存しないという方針をとっているところもあります。

このようなプロバイダ相手ですと、裁判所から情報を開示せよとの仮処分が出たとしても、肝心のログが残っていないとなる場合があります。

そうならない為にも、裁判所からプロバイダに対して発信者情報の消去を禁止する仮処分を出すように申請をしてください。

こちらも仮処分の申請ですので、こちらに発信者情報開示請求権があるということと、保全の必要があるということを主張するようにしてください。

発信者情報の消去を禁止する仮処分については、単にログを消さないでおくという程度のことで、インターネット・サービス・プロバイダに大きな負担を強いるものではないことから、裁判所の判断も厳しくないことが多いようです。

一定の理由があると判断されれば、10万円程度の担保金を条件に、仮処分の決定がされることが一般的です。

また、仮処分をしなくてもログの保存を受けてくれるプロバイダの場合、一定期間は削除しないという内容の和解を提示してくることがあります。

このような場合には、担保金を供託する手間などを考えると和解した方が得策なことが多いです。

ただ、滅多にありませんが、こちらに不利になるような内容が入っていないか確認するようにしてください。内容をきちんと確認した上で、問題がなければ和解をしてください。

4.まとめ

今回は裁判所の手続きを中心に説明をしてきました。

実際には、弁護士を立てて行うことになると思いますが、弁護士費用が賄えるほどの金額が取れそうもない場合や、担当の弁護士が詳しい人かどうかの判断の為にも、ご自身の知識を増やしておいた方が良いと思います。

次回は、開示されたIPアドレスから投稿者を見つける方法をお伝えします。

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